大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ラ)192号 決定 1977年6月09日

抗告人

鈴木義行

右代理人

吉川彰伍

相手方

中岡アイ

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人が峰岸秀雄に対し原決定別紙目録(一)記載の土地の賃借権を譲渡することを許可する。」旨の裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、抗告状におつて提出する旨記載されているが、いまだ提出されていない。

当裁判所の判断は次のとおりである。

一本件は、抗告人が原決定別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を峰岸秀雄に譲渡する必要上、借地法第九条の二第一項の規定に基づいて、本件建物の敷地である原決定別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の賃借権を峰岸に対し譲渡することを許可する旨の裁判を求めたところ、本件土地の賃貸人である相手方において、同条第三項の規定に基づき、相手方自ら本件建物及び本件土地の賃借権の譲渡を受けるべき旨の申立をしたものである。このような場合、裁判所は相当の対価を定めて建物及び土地賃借権の譲渡を「命ズルコトヲ得」と規定されており、その文言上では、あたかも裁判所の裁量によつて賃貸人への譲渡を命ずべきかどうかを決することができるもののごとくである。しかし、右第三項の規定する賃貸人の譲受申立制度は、一般に賃貸人は賃貸により他人に与えた土地使用権を自己に回復することにつき利益を有すると考えられるところから、賃貸人が借地権の譲渡の意思を示す前記第一項所定の申立をした機会に、賃貸人に右期待利益の実現をはかる機会を与えるのを妥当とするとの法意に出たものと解されるから、前記第三項の規定は、裁判所がその裁量によつて譲渡を命ずる裁判をするかどうかを決定しうるとする趣旨ではなく、同項の申立があつたときは、裁判所は、原則として譲渡を命ずる裁判をしなければならないものと解するのが相当である。ところで抗告人が、本件抗告において、原決定を取り消したうえ、峰岸秀雄に対する本件土地の賃借権の譲渡を許可する旨の裁判を求める趣旨は、原決定が相手方の借地権譲受の申立を認容したことを不当とし、右申立を棄却して抗告人の申立を認容する裁判を求める趣旨であると解されるところ、本件において抗告人は、相手方に対し借地権の譲渡を命ずべきでないとする特段の理由につきなんらの主張をせず、またこれを肯認すべき資料も存しないから、この点に関する抗告人の本件抗告は理由がないといわなければならない。

二<以下、省略>

(中村治朗 蕪山厳 高木積夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例